大津町は旧57号線から一歩入った裏通りを勢いよく流れる、一本の川・・と、よく間違えられますが、実は川から田んぼに水を引くための農業用水路なんです。
今から約400年前に作られ、現在まで町を支えてきた「上井手」。
知っているようで知らない「上井手」からつながる、大津町の水の歴史を一緒に探りましょう!
大津町の物語は「上井手(うわいで)」からはじまった
「上井手」とは、大津町の東部から始まり、東西に貫く全長24kmの水路です。瀬田地区にある取入口と呼ばれる施設より白川の水を引き込まれるところから始まります。
街の中心を通り菊陽町で「堀川」と名前を変え、最終的に坪井川に合流。
よく「川」と勘違いされますが、実は農業用水路。農業に水が必要ない11月から3月の一部は“水止め”され、水がなくなる期間があります。
「上井手」の歴史は古く、治水の名手・加藤清正公の時代に構想。以後400年、白川の反乱をやわらげ、作物の取れなかった大津南部の農村地帯を潤してきました。農業が盛んになると、商業・工業が発展、人が集まり「町」ができていきました。
ちなみに、くまもと空港へ続く橋のたもとに「町」「下町」という地域がありますが、上井手ができる前はその周辺が町の中心部だったそうです。
上井手開削後、宿場町形成のため白川沿いの一部住民を移住させることにより、上井手周辺に新たな町が誕生。と、いうことは「大津町の真ん中あたり」って、まだ出来て300〜400年ほどなんですね。
半導体の話題で全国的に有名になった大津町ですが、今も昔も町を支えるのは豊かな水だった・・。
そんな町の基礎を作ったスゴイ水路「上井手」ですが、できあがったのは工事開始から38年後のこと。清正公は上井手の完成を見届けることなくご逝去、息子さんが引き継いだあとも失敗してはやり直して・・
もう、映画一本作れるくらい激アツな水路それが「上井手」です。
2018年には世界各地の農業遺産を登録する「世界かんがい施設遺産」にも認定。先人たちの努力と功績が、時を超え世界に認められたのです。
上井手おさんぽMAP
あまり知られていませんが、上井手周辺は宿場町時代の町並みが残る歴史散策スポット。風情漂う建築物と静かな雰囲気に、大津町のイメージが変わること間違いなしです。
早速、一緒に歩いてみましょう〜!
上井手沿いの趣ある通りは塘町筋です。
この道沿いに立ち並ぶ「大願寺」「光尊寺」「年禰神社」は、宿場町を作る際、住民の移住を定着させるために建てられました。
秋は紅葉が美しい光尊寺。
お寺へと続く眼鏡橋は、上井手沿いに全部で5基あるうちの一つ。毎年、お盆と年末には竹灯りの催しを行っています。
水車が勢いよく回りゆっくりとした時間が流れる、苦竹年禰神社と上井手公園をすぎたら、
西南戦争で薩摩軍司令部を置いたとされる大願寺が見えてきます。
近くで見ると歴史を感じさせる風格に圧倒されますよ。
水車の時代から今も受け継がれるもの
かつて上井手沿いから引いた水を利用した動力水車は、旧道沿いに24基、大津町全体では57基ほどあったとか。
時代とともになくなっていく中、唯一当時の地下水車が現存し、今もなお回っているのがここ「ごはん屋DE水車物語 和心garage利白」。
その昔、「中村製粉」の工場だった場所を、まちづくりへの思いと地元の子どもたちの後押しもあり思い切ってカフェに改装。熊本地震で一時止まった時期もありましたが、2021年に復活。[上井手]や水車の歴史を後世に残すため、軽快に回っています。
2024年7月には、カフェ+和食レストランとしてリニューアルオープン。あか牛などくまもとの食材を使ったランチ・ディナーに加え、米粉スイーツを楽しめるカフェとしても利用できます。
水車の回る水の音に癒やされながら、歴史を感じてみてはいかがでしょうか。
住所:熊本県菊池郡大津町室125
営業時間:
ランチ 11:30〜13:30
カフェ 14:00〜16:30
ディナー17:00〜19:30 *18:00以降は予約のみ
定休日:月曜・第2日曜日(店休日前日は17:00 close)
TEL:090-8918-6829
歴史を守りながら、次の世代への挑戦を
「中村製粉」は大津町内で製粉業を営む創業100余年の老舗企業。
創業から60年ほど水車の動力で粉を挽き、米粉の製粉を行っていました。時代とともに、40年前に三代目中村和人さんが意を決して工場を移転。「中村製粉」の粉は、大津町伝統のお菓子「銅銭糖」にも使われ、広く親しまれています。
現在は四代目である中村和宏さんが伝統を守りつつ大胆な発想で、グルテンフリー商品や震災の保存食などを開発し、地域に広く貢献されています。
住所:熊本県菊池郡大津町引水605-1
営業時間:9:00〜18:00
定休日:土日・祝日
TEL:096-293-3173
FAX:096-293-2068
ほろっと広がる、優しい口溶け。大津町の郷土菓子「銅銭糖」
水の歴史がぎゅっと詰まっていて、かつての風景を思い浮かべながら散策のお供に最適なお菓子でもある「銅銭糖」。
「銅銭糖」は、160年以上の歴史のある落雁菓子で餅粉と砂糖や水飴などを練って作った落雁の中心に、あんこが入っているのが特徴。その形は、当時の庶民が“銅銭に紐を通して持ち歩いていたものを模している”と言われています。お金に見立てた形から、当時は縁起ものとして喜ばれていたとかいないとか。
口に入れるとふわりとくずれ、優しい甘さが広がり、コーヒー、紅茶や緑茶にも合う不思議なお菓子。熊本を代表する女流俳人中村汀女も「銅銭糖」を愛し、これを題材に句を読んでいます。
原料の餅粉もかつては水車で挽いて作られ、構想も製法も[上井手]の恩恵を受けた歴史を感じるお菓子です。近年、その歴史や伝統文化への関心が高まり、徐々に注目を集めています。
住所:熊本県菊池郡大津町室1037
TEL:096-293-2503
営業時間:8時30分~18時30分
店休日:不定休
最後に
400年の時を超え、大津町を支えてきた「上井手」。
その歴史は、単なる水路の話ではなく町の発展と人々の暮らしに深く関わる壮大な物語です。上井手沿いの静かな街並みや歴史的建造物を散策すれば、過去と現在が交差する不思議な感覚を味わえるでしょう。
「上井手」のせせらぎの音に耳を傾けながら、古き良き時代の空気とともに、新しい魅力に触れる旅に出かけてみませんか。